「今だから話せる佐藤のコラム 第63号」

「今だから話せる佐藤のコラム 第63号」

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┃◆┃(公社)いわき産学官ネットワーク協会News  2022.05.27
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┃ 「上海レポート」でお馴染みの佐藤忠幸氏より
┃ 『今だから話せる佐藤のコラム』が届きましたのでお知らせいたします。

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中国での会社設立・販路拡大等を支援している、
(公社)いわき産学官ネットワーク協会アドバイザーの佐藤忠幸氏から
「今だから話せる佐藤のコラム 第63号」(初めての海外生活63)をお届け
いたします。

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 デフレスパイラルと永年勤続
2022年5月25日 佐藤忠幸

 昨日から初夏の陽気となりましたが、五月晴れの日は少なく梅雨入りしたのかと
思うほどです。
 富岡川せせらぎ緑道では、薄い水色や紫色の地味な花を一杯に付けているセンダ
ンも見られる季節になりました。
センダンというと「栴檀(センダン)は双葉より芳し」を思い出します。
センダンは苗の段階から良い香りがするように、才覚のある人物は幼少時からそれ
を発揮するという言葉です。
しかし、本来これは熱帯アジア産のビャクダン(白檀)を語ったもので、センダン
の枝葉や材には香りがありません。
 センダンの根元ではサツキやニオイバンマツリが満開です。
 ニオイバンマツリは花が紫から白へと花色が変化し、さわやかな芳香があります。
一般家庭では鉢物として育てることが多いようですが、当地の様に、霜があまり降
りないような地域では戸外でも越冬するので桜やコブシなどの根元に植えて、花の
少ない初夏の目を楽しませてくれます。
 今号も、私が以前行っていたコンサルタント関連の内容を、現代流にアレンジし
たものと街で気が付いたことを報告させていただきます。

【町内に8軒の新築住宅】
 我が家は、京急富岡駅から続く商店街道路の端っこから横に曲がって坂道を上っ
たところにあります。
最近その坂道途中で建売住宅らしき住宅工事を4ヵ所もしており、どうやらそれぞ
れ2軒ずつ、つごう8軒の家が建つようです。
一ヵ所は元小さなアパートを解体して2軒の住宅を、他の3箇所はそれぞれ古い一
軒家を解体し基礎も造り直してそれぞれ2軒の住宅を作っています。
 数年前にも同じ現象が起きてやはり8軒ほどの家が建ちました。
こんな不況時に何故そんなに住宅工事が盛んなのか調べたら事情が分かりました。
東京都内の集合住宅に住んでいる若い家族が、リモートワークが進んだことをキッ
カケに自分の家を持ちたいとのあこがれが強くなったようです。
そこで、東京から見たら郊外で地価の比較的安いここ富岡地区が目についた訳です。
富岡地区でもここらの土地は建蔽率50%・容積率100%と住宅専用地としては
緩い基準です。
現代の若者は駐車場や物置さえあれば植物を植える庭など不要です。
しかも、現在は3階建て住宅も許されており古い家を取り壊して2軒にするなどは
全く問題ないようです。
 それぞれ趣のあった緑豊かなお庭の一軒家が次々に現代風の建売住宅に変わるの
は少々寂しい気分ですが、老人主体の街に乳幼児を連れた親子を見られることは幸
せですね。

【デフレスパイラルに悩む日本】
 建売住宅で思い出しましたが、日本の1990年代前半に「価格破壊」という言
葉が流行したほどで、宅地も猛烈に値下がりしました。
それは価格が高すぎるから需要が少なくなって景気が悪くなったので、デフレによ
って価格が下がれば需要が増加して好況に戻ると言われていました。
 ところが、需要減退→物価下落→企業採算悪化→リストラによる人員整理→所得
減少→さらなる需要減退という形でデフレがスパイラル的に進行し、それをデフレ
スパイラルという新しい深刻な長期不況を呼んでしまいました。
外来語の大嫌いな私でも、デフレスパイラル日本語になかなか良い言葉が無くて困
りますが、別の言い方で不況要因が連鎖的に悪循環が生じることとの様です。
 これも一時的な現象であれば問題ありませんが、デフレスパイラルが数十年も続
いた結果、日本国全体のGDP(国民総生産)は世界第3位ではあるものの、国民
一人当たりのGDPは世界第28位と猛烈に下がりました。
 平均給与でも、欧米に負けているのはもちろん、アジア諸国においても上海など
中国の大都市や香港・韓国・台湾・シンガポールなどよりもはるかに安月給です。
 1970年代後半からは労務費の安さと労働力を求めて、韓国・香港・台湾・シ
ンガポールなどに工場を求めて競って進出したものです。
そして、1990年代後半からは中国が解放されたということで中国進出が盛んと
なりました。
最近ではそこからさらに発展途上国へ移動し、業種によっては日本へ戻るなどとい
う極端な現象まで起きています。
 しかし、労務費の安さを求めて進出した国の労働者の給与よりも、日本人の給与
がはるかに安いとは深刻な問題だと思います。
 岸田政権が、国民の生活を守り、国民の所得を増やすと宣言し、そのための政は
「富める者と富まざる者、持てる者と持たざる者の分断を防ぎ、成長のみ、規制改
革・構造改革のみではない経済を目指すための『成長と分配の好循環』と、・・中
略・・・、新しい資本主義を実現していく。」を宣言したのは当然でありむしろ遅
すぎたと思っています。

【長期勤続者が多いことは、企業にとってよいことか】
 まさに、日本がデフレスパイラルだと日銀総裁が認定した2001年からの中国
駐在中の話題を送らせていただきます。
中国で操業十数年の日系企業を訪問し、社長(総経理)さんのお話を伺って気にな
った発言は「我が社員の多くは十年選手ですから安心してください」でした。
 当時は「労働契約法」という中国で初の本格的労働基準法の施行直前のことです。
労働契約法は、労働者国家の中国としては珍しく、労働者を保護するために初めて
作られた法律です。
当法律では、長期雇用者を安易に解雇できなくするため、勤続年数に応じた解雇制
限条項や解雇手当の支給命令などの労働者保護策をもうけています。
このため、施行後は会社の都合だけでは安易に解雇は出来なくなりました。
 したがって、中国系企業では安易に長期雇用する会社は劇的に減ったものです。
しかし、何故か日系企業ではまだまだ長期勤続者が多いことを自慢にする経営者が
多かったと記憶しています。
 本当にその会社にとって長期(永年)勤続者は役立っているのでしょうか?
 そして本当に長期(永年)勤続者が多いことは誇るべきことでしょうか?

【何故企業は永年勤続者を望むのか】
 企業の中の業務を分析すると、大部分の業務が数時間か数日で習熟することに気
がつきます。
その業務しか担当しない者は、ほんの数ヶ月・数年勤めていただき、アルバイトな
どの新人に入れ替わったほうが会社のためにも本人のためにも良さそうです。
しかし、実際は科学的な教え方をせず、先輩からの口伝か慣れに頼っており習熟機
関が長くかかっています。
しかも管理監督者の教育が疎かのため仕事の教え方がいい加減ですから、永年勤続
を求めるのでしょう。
 単純労働で永年勤続を強いられた労働者は企業に何を求めるのでしょうか?
生活の安定だけ、すなわち給与だけが目的となってしまい、会社に残ることが苦痛
となります。
そして、働くこと以外に生き甲斐を他に求めることになります。
働く目的は、生活費を稼ぐ即ち給与を得ることも有りますが、それは短期的なもの
であって究極の目的は、働き甲斐・生き甲斐を求めることにあるからです。
 単純労働でも勤続が長いというだけで高給を払ってはいませんか?
 勤続が長いというだけで高いポジションの職位を与えていませんか?

【永年勤続者は、企業にとってかけがいのない者ばかりか】
 単純な仕事でも素早く正確に覚え、しかも幅広く多数の仕事が出来る者や後輩に
指導できる者は貴重な存在です。
また業務をその様に分析し、教えられるようになるにはある程度経験が必要です。
仕事を管理監督する立場の者も貴重です。
それら要職に該当する者だけは永年勤続して欲しいですね。
 しかし、そのような職種や職位の者は労働者の中で何%でしょうか?
一般的には30%以下といわれています。
企業体質によって異なりますので自社はどうなのか分析してみてください。
 とにかく、その様な要職に値しない者は、極端に言えば半年毎に入れ替わっても
よいのです。
採用および教育担当は忙しいでしょうが、経費的にははるかに安上がりですし、新
陳代謝が激しいことは職場での競争も激しくなり、よい循環を産んでいます。
これにより、残って欲しい要職者、永年勤続者は厚遇することが出来ます。
 しかし、全員を厚遇し、高給にしたら本当に皆さんが残ってくれるのでしょうか?
仮に残ってくれたとして、それは残って欲しい人ばかりでしょうか?
 実際は、残って欲しい者にはサッサと辞められてしまい、何処にも転職できない
かその企業で安住したい者ばかりが残ってしまいます。
 これでは逆効果です。

【永年勤続者を企業にとって欲しい者ばかりにするには】
 全員が高給優遇をされた彼ら彼女らは何を求めて残ってくれたのでしょうか?
また賃金格差は何によってつけるのでしょうか?
年功序列型賃金制度の企業は、人事考課による成績や能力差を賃金への反映はして
いないかわずかな反映です。
そう言う企業は、日本にはまだ少しは残っていますが、労働者の意識が高い中国で
は生き残れません。
 全員が高給であっても能力や成績で妥当な格差がついていない賃金は、優秀な者
から見れば不公平な人事賃金制度です。
 そんな制度では、残って欲しい者から辞められます。
毎年の人事考課を、確かに行なっているのか真剣に振り返ってください。
 しかし、格下げや降給につながった人事考課の合理性・納得性、そして人事考課
と給与の関係が明確でなければ訴訟に負けますよ。
 人事・給与制度が重要な所以です。

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